別法人のサイト(外国のサイトを含みます)へ接続します。

これより先は別法人のサイト(外国のサイトを含みます)へ接続します。
接続する場合は「別法人のサイト(外国のサイトを含みます)へ接続する」を、接続しないでこのメッセージを閉じる場合は「このページにとどまる」をクリックして下さい。

Skip to main content

PE向けニュースレター Vol.13

TOB(MBO)案件での表明保証保険の利用

表明保証保険はポートフォリオカンパニーを売却する際に、クリーンエグジットを実現するためのツールであるとの印象をお持ちの方が多いと思われますが、日本ではTOB・MBO案件に対しても、活用が可能です。
Bottom view of modern skyscrapers in business district against blue sky
表明保証保険はポートフォリオカンパニーを売却する際に、クリーンエグジットを実現するためのツールであるとの印象をお持ちの方が多いと思われますが、日本ではTOB・MBO案件に対しても、活用が可能です。
特にファンドからの出資金(株式)で買収資金を調達するようなMBOにおいては、表明保証保険の活用はかなり有効と考えられます。
今回はTOB(MBO)案件での表明保証保険の利用についてご説明します

1.国内における株式の非上場化について

日本では、上場していると企業の知名度や信用力が向上し、人材確保や融資を受けるのに有利になるとの考え方が根強い。一方、近年は「物言う株主」と呼ばれるアクティビストなどから、不採算事業の売却といった経営改革への意見が出されたり、配当増や自社株買いの実施など株主への利益還元を求められたりすることも多く、投資家と経営陣が対立して混乱する事例は後を絶たない。   

そのような中で、日本では上場会社数が一貫して増えている一方で、イギリスやドイツ、アメリカといった主要先進国では上場会社数が大幅に減っているとのことだ。減少の背景には、上場企業に対する規制強化のほか、株式市場の代替として「資金調達の手段」に成長している投資ファンドの存在があるようだ。

一方、こうした海外のトレンドを反映してか、日本では投資ファンドが上場会社の株式を取得することでその経営支配権を取得するM&Aが増えている印象だ。上場企業に対する公開買付けによる株式の取得(以下「TOB案件」)の件数は1~5月累計で30件と、前年同期の27件を上回るペースで推移している[i]。更には、既にTOB案件が開始している中で、別の企業が買収に意向を示し、争奪戦が展開されるという国内では従来は珍しかった事例も、最近では散見されるようになった。「企業買収における行動指針」がこのような動きに拍車をかけているとの報道もあったように記憶している。

また、TOB案件のうちMBOは9件で前年同期5件を上回っている[ii]。MBOとは、マネジメント・バイアウトの略称で、経営陣などが自社の株式や事業部門を買収して独立することを指す。MBOにより上場していることによる負担がなくなり、自由度の高い経営や構造改革に取り組めることが件数が増えている背景であろう。なお、最近のMBOの事例をみると、大半がファンドからの出資金(株式)で買収資金を調達するファンドMBOであることがわかる。そういった意味では、日本国内においても、投資ファンドが「資金調達の手段」としての存在感を示しつつあることが見て取れる。

2.    日本国内における表明保証保険の普及とTOB案件に対する活用

国内案件での表明保証保険(以下「本保険」)の利用数は、ここ数年で大幅に伸びてきている。この要因の一つは、2020年に主要な国内損害保険会社より、引き受けの審査から証券の発行までが全て日本語で完結できる国内M&A保険が相次いで発売されたことによる。但し、その中でもTOB案件での本保険の利用は昨年まではほぼ実績がなかった。しかしながら、昨年以降、特に国内の保険会社のスタンスが変わり始め、TOB案件でも本保険の引受を積極的に検討し、実際に契約締結に至るケースも出てきている。TOB案件に対する本保険の手配には、株式譲渡契約に基づく非上場会社の株式の取得とは異なる種々の論点が存在する。

2021年以前は、主に以下の理由により、TOB案件に対して、本保険の活用が積極的に検討されなかったと考えられる。

  1. 海外においても、TOB案件で本保険が活用された実績はあまりなく、また国内M&A保険についてもさほど普及しておらず、TOB案件で本保険を活用できるという発想がそもそもなかった。
  2. 上場会社は情報の公開が義務付けられている面も多くあり、潜在化しているリスクが比較的低いと考えられた。
  3. TOBを実施しようとする者(以下、買付者)が、その準備段階で保険会社・保険代理店を関与させることは、上場会社たる発行会社の秘匿性保持・情報管理の観点から望ましくないと考えられた。
  4. 上記3の考えもあり、保険会社が引受審査を行うにあたり十分な資料・情報の提供を受けられないことを懸念し、TOB案件に対する本保険の引き受けに消極的であったという側面も否めない 

 

3.表明保証保険をTOB案件で活用するにあたっての論点

① 表明保証条項の存在

本保険は、一般的に株式譲渡契約書の中での売主の表明保証の違反により、買主が被った損害をてん補する保険である。そのような中で、契約書の中で表明保証条項が存在するとの前提で、第三者割当・持ち分譲渡・地位譲渡・資産譲渡などの取引に対しても、本保険の活用が可能である。

TOB案件の場合は、買付者は成立の可能性を高めるために、TOBの対象とする株式の発行会社やその大株主との間で、各当事者の権利・義務を定めた契約を締結することがある。大株主がTOBに応募することを義務付ける応募契約、大株主がTOBに応募せず発行会社に株式を売却しその後発行会社に自己株消却をさせる旨を定める契約、大株主が買付者となり発行会社との間で締結する二者間契約などの様々な契約(以下、これらを総称して「TOB契約」が考えらえる。このように、何らかのTOB契約が締結され、その中に表明保証条項を盛り込むことが可能であれば、TOB案件でも本保険の活用は理論上可能となる。

その際、問題となるのが、誰が表明保証をするかという点である。大株主が発行会社の事業内容を十分に把握している場合には、大株主にTOB契約の中で発行会社に関する事項(財務諸表、税務、その他)につき表明保証をさせるのが自然である。他方、大株主でありながら発行会社の事業内容をあまり把握できていない場合には、発行会社またはそのマネジメントに表明保証をさせるといった方法も選択肢となり得る。

 

② デューデリジェンス(DD)の実施

保険会社がTOB案件に消極的であった理由の一つは、買付者が大株主や発行会社から十分な情報開示を受けらない、また買付者側で十分なDDが実施できない可能性が高いという点である。保険会社は、非公開会社の株式譲渡の場合は買主側で行われたDDの内容を見て本保険の引受の是非を判断するため、TOB案件の場合も買付者で十分なDDができていないと、本保険の引受が難しくなる。

国内のTOB案件とは少し話がずれてしまうが、この点に関し英国系の法域(UK、オーストラリア、シンガポール、香港など)では、TOB案件で利用されるScheme of Arrangementという法定のスキームがあり、裁判所の関与の下、買主側のDDで必要となる情報の開示などもなされるため、このような案件では従来から本保険の利用が可能であった。他方、このような法定スキームがない国々では、上記の問題があり本保険の利用検討が難しかった。

③ 国内保険会社のスタンスの変化

TOB案件は、一般的に案件サイズも大きく、保険会社にとっても魅力的な案件である。したがって、上記3①②の問題さえ解消できれば引受を検討したいという機運が、昨年以降国内保険会社の中で高まってきた。

そのような中、①に関しては、買付者と大株主との間でTOB契約が締結される場合に加え、発行会社と買付者との間で締結されるTOB契約が締結される場合でも本保険の引受が可能となる事例も出てきている。なお、発行会社の表明保証を前提に本保険の引受が行われるにあたっては、一般的には保険会社は表明保証違反が発行会社の詐欺・隠ぺいなどの行為に起因する場合は、買付者に保険金を支払うのと引き換えに、発行会社に対する代位求償権を取得することとなる。そのような中、国内の一部の損害保険会社は、詐欺・隠ぺいがあった場合の代位求償権すらも、放棄が可能な状況となっている(外資系保険会社の場合は不可)。

次に②のポイントであるが、こちらに関しても国内保険会社のスタンスは柔軟になっている。TOB案件では、各保険会社に概算見積りを依頼する段階で、買付者および買付者側のアドバイザーから以下のポイントをまとめたサマリーを提出してもらうこととなる。

 

  • 買付者側のDDに必要な情報が大株主や発行会社側から提供されているか
    (VDRにアップされているか)。
  •  受領した情報や売主・発行会社との質疑応答をベースに他の非公開会社の案件と同等のレベルでのDDが行えているか。

 

このサマリーを見た上で問題ないと判断した保険会社からは、概算見積りが提示される。また、これらの点に関しては再度引受審査の段階でも保険会社側からの確認が入る。審査の結果、保険会社が他の非公開会社の買収案件と比べても遜色なしとの結論に至った場合には、TOB案件においても保険の引受が可能となっている。

 

4.MBO案件に対する表明保証保険のニーズの高まり

一般的には、TOB契約の場合には、通常の株式譲渡契約と異なり、発行会社に関する事項についての表明保証が規定されないことがあると聞く。一方、最近よく目にするファンドが創業家と組んで行うMBO(創業家のメンバーで発行会社のマネジメントである者が買付者となり、ファンドが何らかの形で資金提供するようなスキーム)については、ファンドは創業家側とTOB契約を取り交わし、当該契約の中で創業家に対して、発行会社に関する事項についての表明保証を求めたいとの意向が働くようである。

一方、MBOの完了後は、創業家とファンドが二人三脚で踏み込んだ事業改革を実施して、企業価値を高めて再上場などを目指していくこととなる。従って、創業家の表明保証違反があった場合であっても、ファンドと創業家が争うような構図は、避けたいと考えるようである。本保険をかけておくと創業家の表明保証違反によりファンド側が被った損害のてん補を保険会社に請求でき、その結果、創業家との争いを回避できるため、MBO案件においても本保険のニーズが、高まるものと考えられる。

日本においては、上場企業の過半で創業家が株式を保有しているといわれる中で、今後もオーナー企業のMBOが広がる可能性は高いと考えられている。MBOを円滑に推進するツールとして、本保険が広く活用されていくことを、是非とも期待したい。

本件についてのお問い合わせはこちらからご連絡ください