by Satoru Hiraga ,
Director, Chairman, Marsh Broker Japan
04/10/2024
本内容は『保険毎日新聞』(2024年9月27日 掲載)にてマーシュ ブローカー ジャパン株式会社 取締役会長 平賀 暁が受けたインタビュー記事を引用したものです。
世界経済フォーラムがマーシュ・マクレナンおよびチューリッヒ・インシュアランス・グループと共同して制作した、「グローバルリスク報告書2024 年版」のポイントについて、マーシュブローカージャパンの平賀暁会長に聞く。
同報告書は、世界の政界、財界、学術界のリーダー1,400人以上を対象にした最新のグローバルリスク意識調査などに基づいた内容となっており、19回目となる今回の報告書では、短期(今後2年間)と長期(今後10年)、それぞれにおいて発生が想定されるリスクを、その重要度の順にランキング形式で紹介。短期では「誤報と偽情報」、長期では「異常気象」がそれぞれ1位となった。
平賀氏は「今回の報告書に挙がっているリスクの約7割には、ロシアのウクライナ侵攻が関わっており、地政学リスクがいかに多方面に長期的な影響を及ぼしているかが分かる」と話す。
平賀: 世界各国から1,400人以上のリスクスペシャリストの意見を反映したGRPS (Global Risks Perceptions Survey: グローバルリスク意識調査)と、自国の「事業運営を阻害する主要リスク」について約12,000人あまりの企業経営者からのアンケート結果を反映したEOS (Executive Opinion Survey)の2種類の調査結果も参考にしながら作成されている。
GRPSでは、今後10年間の発生リスクで1位「異常気象」、2位「地球システムの危機的変化」、3位「生物多様性の喪失と生態系の崩壊」、4位「天然資源不足」と、気候変動や地球温暖化に関する項目が上位を占める結果となった。ヨーロッパは脱炭素などの環境問題解決に対してどの地域よりも先駆的に取り組んでおり、GRPSのメンバーの約4割がヨーロッパ圏からであることもこれらの結果に影響していると考えられる。
一方、EOSでは、2024年度のリスク懸念が1位「景気後退(不況、停滞)」、2位「インフレーション」、3位「人材・労働力不足」、4位「エネルギー供給不足」と、主に経済リスクが上位を占めた。これは回答者が経営者であることから、自社の業績に大きな影響を直接的に受けるリスクを上位にリストアップしたものと考えられる。
平賀:GRPS、EOSの結果自体は異なるが、上位にランクインしているリスクと関連深いリスクの源がいくつか存在している。例えば、ロシアのウクライナ侵攻をはじめとする地政学リスクがあげられる。
GRPSの今後2年間の発生リスクの1位は「誤報と偽情報」であるが、米国前大統領のトランプ氏が、陣営スタッフのロシアとの接触疑惑といった政権に批判的な報道に対し、就任後初の単独記者会見で繰り返し「フェイクニュース」と訴えていたことは記憶に新しい。その後、ロシアのウクライナ侵攻が始まって以降も、一部の国・地域で偽情報と疑われるものが発せられて頻発してプロパガンダにも応用されている。
EOSで24年度の上位に選出された経済リスクの裏側にも、ロシアのウクライナ侵攻が深く関わっており、紛争が起きたことによって、インフレーション→景気後退→労働力の不足といった問題が順番に起こり、2次的・3次的なリスクとして表面化したものが今回の結果につながっている。
リスクが複合的に起きるポリクライシス(polycrisis)とリスクの連鎖によって長期的に危機状態が続くパーマクライシス(permacrisis)が同時に発生する現象が最近のリスクの傾向である。
平賀: 一つは「エネルギー供給不足」である。このリスクは紛争が勃発してすぐに顕在化し、ヨーロッパの各国ではLNG(液化天然ガス)が供給不足となり、その結果、石炭火力発電に回帰せざるを得なかった。「脱炭素」を推進していた中で石炭に頼らざるを得ない状況が一時期的に続いた。
ロシア・ウクライナ問題が長期化すれば、GRPSの今後10年間の発生リスクに挙がったものの中で、環境リスクはもちろん、その他の「サイバー犯罪とサイバーセキュリティー対策の失敗」「非自発的な移住」「社会の二極化」などを含めた上位リスクの全てに連鎖して深刻な社会・経済的な影響を与えることは必至である。
平賀: GRPSの今後2年間の発生リスクの1位に選ばれた「誤報と偽情報」に注目している。
生成AIの出現や動画編集技術の進展に伴い、ペンタゴンへの爆弾投下といったフェイク動画が精密さを増してきているが、偽情報の高度化よりも、情報そのものがテレビ報道や新聞といったメディア以外のSNSなどを通じて、広く世の中に拡散することに危機感を抱いている。
SNSは、ある種それ自体が閉鎖された社会として、世界中に幾多と存在している。そうした社会の中にいる人たちの多くが正しくない情報を「正しい」と認識すれば、誤報はあっという間に「情報」として世界に広まる。
平賀: ここ2~3年考えていることだが、プロテクションギャップをいかに埋めていくかが重要だ。現在、日本は自然災害による経済損失の約35%しか保険でカバーできておらず、この問題を解決するには政府の支援も不可欠である。日本の保険会社各社は、発災確率、発災時の損失予想額といったデータを持っており、それらを生かして官民連携で防災支援に取り組む動きが出始めている。
政府には、防災支援だけではなく、例えば大規模な災害が起きた際に、政府が受再するような補償サポートの仕組みを更に万全なものに備えておく必要があるだろう。エネルギーの供給問題に関しては、現在、国内の産業では燃料アンモニアの導入、バイオマスエネルギーである林地残材や下水汚泥を燃料に加工し、石炭と一緒に利用するといったCO2削減に向けた取り組みを進めている。
再生エネルギーの貢献率が伸び悩んでいる現状を考えれば、前述したような脱炭素技術を交えたエネルギー政策を推進し、更には原子力の活用も視野に入れていく必要がある。となれば、新たなリスクが発出するが、それらに対する迅速な対応や対策も同時進行で考えていかねばならないと思う。
平賀:GRPS、EOSの結果自体は異なるが、上位にランクインしているリスクと関連深いリスクの源がいくつか存在している。例えば、ロシアのウクライナ侵攻をはじめとする地政学リスクがあげられる。
GRPSの今後2年間の発生リスクの1位は「誤報と偽情報」であるが、米国前大統領のトランプ氏が、陣営スタッフのロシアとの接触疑惑といった政権に批判的な報道に対し、就任後初の単独記者会見で繰り返し「フェイクニュース」と訴えていたことは記憶に新しい。その後、ロシアのウクライナ侵攻が始まって以降も、一部の国・地域で偽情報と疑われるものが発せられて頻発してプロパガンダにも応用されている。
EOSで24年度の上位に選出された経済リスクの裏側にも、ロシアのウクライナ侵攻が深く関わっており、紛争が起きたことによって、インフレーション→景気後退→労働力の不足といった問題が順番に起こり、2次的・3次的なリスクとして表面化したものが今回の結果につながっている。
リスクが複合的に起きるポリクライシス(polycrisis)とリスクの連鎖によって長期的に危機状態が続くパーマクライシス(permacrisis)が同時に発生する現象が最近のリスクの傾向である。
26/04/2024